対話型AI「ChatGPT」を展開するOpenAIは、Slackの前CEOであるデニス・ドレッサー（Denise Dresser）氏を最高収益責任者（Chief Revenue Officer, CRO）として迎え入れると発表しました。エンタープライズ（企業向け）分野に強い同氏の就任は、OpenAIが本格的に企業市場での収益拡大を図る動きとして注目されています。
OpenAIがCROを迎えた背景と狙い
OpenAIにとっての「最高収益責任者」とは何をする役職か
最高収益責任者（CRO）は、企業全体の収益戦略を統括するポジションです。OpenAIでは、グローバルな収益戦略の立案・実行に加え、大規模な顧客サポートやパートナーシップの構築を通じて、AIサービスをより多くの企業に届ける役割を担います。
特に、ChatGPTやAPI、企業向けのAIソリューションをどのようにパッケージ化し、料金体系を設計し、サポート体制を整えるかといった部分で、CROの判断がこれまで以上に重要になります。
企業向けAI市場を本格拡大するタイミング
生成AIは個人利用から始まりましたが、現在はセキュリティやコンプライアンスに配慮した「企業版ChatGPT」や業務システムへのAI組み込みなど、法人需要が急速に高まっています。OpenAIとしても、安定した収益源を確保するためには、サブスクリプション型や大口ライセンス契約など、企業向けビジネスの強化が不可欠です。
今回のCRO就任は、プロダクト主導の成長から「収益と顧客体験」を軸にした成長へと舵を切るシグナルと見ることができます。
デニス・ドレッサー氏とは誰か
Slack前CEOとしての実績とエンタープライズ経験
ドレッサー氏は、ビジネスチャットツールSlackのCEOを務め、同社の成長を牽引してきた人物です。Slackは、スタートアップから大企業まで幅広いユーザー基盤を持ち、企業向けSaaS（クラウド型ソフトウェア）の代表的存在として知られています。
Slackでは、企業ごとに異なるニーズをくみ取りながら、セキュリティ、管理機能、サポート体制を整備し、現場の従業員にとっても使いやすいプロダクトとして普及させてきました。こうした「エンタープライズとユーザー体験の両立」は、そのままOpenAIにも求められる能力です。
「顧客体験」に精通したリーダーとしての期待
OpenAIの発表によれば、ドレッサー氏は「エンタープライズ領域とカスタマーエクスペリエンスに深く通じた」リーダーとして評価されています。単に売上を伸ばすだけでなく、顧客がAIを安心して導入し、継続的に価値を引き出せるような仕組みづくりをリードしていくことが期待されています。
とくに、AIは導入して終わりではなく、運用や従業員トレーニング、社内ルールづくりまで含めた「体験設計」が成功の鍵を握ります。Slackで培った経験は、AI活用を組織全体に浸透させたい企業にとって大きな助けとなるでしょう。
企業ユーザーにとってのメリットと今後の変化
より使いやすい料金・サポート・導入プロセスへの期待
OpenAIにCROが加わることで、企業ユーザーにとっては次のような変化が期待されます。
- 企業規模や業種に応じた柔軟な料金プラン
- 導入から運用までを支える専任サポートやパートナーネットワーク
- セキュリティ・コンプライアンス要件を踏まえた提案やドキュメント整備
- 既存の業務ツール（チャット、CRM、ナレッジベースなど）との連携強化
これらが整えば、「興味はあるが、社内にどう導入すればよいか分からない」という企業にとっても、生成AIを検討しやすい環境が整っていくと考えられます。
Slack的コラボレーションとAIの組み合わせの可能性
Slackは、チームのコミュニケーションを効率化することで業務全体の生産性を高めてきました。今後、OpenAIが提供するAIエージェントやチャットボットが、社内チャットやプロジェクト管理ツールとより密接に連携することで、「人とAIが一緒に働く」新しいワークスタイルが加速する可能性があります。
ドレッサー氏の経験は、単なる機能追加ではなく、「現場の仕事の流れそのものをどう変えるか」という視点からAI活用を設計するうえで、大きなヒントをOpenAIにもたらすとみられます。
まとめ
Slack前CEOのデニス・ドレッサー氏がOpenAIの最高収益責任者に就任したことは、OpenAIが企業向けビジネスと顧客体験を重視する新たなフェーズに入ったことを示しています。企業としては、今後の料金体系やサポート体制、導入事例の拡充に注目しながら、自社の業務に生成AIをどう組み込むかを検討していく好機と言えるでしょう。
