AIスタートアップAnthropic(アンソロピック)が、社内エンジニアを対象にした大規模調査の結果を公開しました。AIが日々の開発業務をどう変えているのかを具体的なデータから示したこの調査は、今後、多くの職場で起こりうる「AI時代の働き方」の姿を予測するうえで重要な示唆を与えています。
Anthropic社内で進むAI活用の実態
132人のエンジニアを対象にした詳細な調査
Anthropicは、自社のエンジニア132人に対してアンケート調査を行い、さらに53件の詳細インタビュー、20万件に及ぶ社内のClaude Codeセッション(AIコーディングアシスタントの利用ログ)を分析しました。これにより、「AIをつくる側」がどのようにAIを活用しているのかを、多角的に把握しようとしています。
Claude Codeが開発プロセスに組み込まれる流れ
分析対象となったClaude Codeセッションは約20万件。多くのエンジニアが、コードの自動生成だけでなく、リファクタリング、バグ調査、ドキュメント作成など、開発プロセスのさまざまな場面でAIを活用している様子がうかがえます。単なる「一時的な補助ツール」ではなく、日々の開発フローに常時組み込まれつつあることが特徴です。
エンジニアの仕事の「質」と「範囲」の変化
調査の目的は、AIがエンジニアの仕事量を増減させたかどうかだけではなく、「どのような作業がAIに置き換わり、どのような作業が人に残るのか」という質的な変化を明らかにすることにあります。初期実装や定型的なコード作成はAIが担い、人は設計・レビュー・意思決定など、より抽象度の高い業務に時間を割くようになる傾向が示唆されています。
結果が示す「これからの労働」のヒント
開発スピードだけでなく「試行回数」が増える
AIによるコーディング支援は、単純にスピードを上げるだけでなく、「とりあえず形にして試す」試行回数を増やす効果があると考えられます。プロトタイプの作成や設計の検証が容易になり、エンジニアはより多くのアイデアを短時間で試せるようになります。これは、最終的なプロダクトの質やイノベーションの幅にも影響を与える可能性があります。
スキル要求のシフト:コーディングから問題設定へ
AIがコードを書けるようになればなるほど、人間の役割は「何をつくるか」「なぜそれをつくるか」といった問題設定や要件定義、仕様設計に移っていきます。Anthropicの調査は、AIエンジニアの現場でこうした変化がすでに始まっていることを示す材料と言えるでしょう。今後、多くの職種でも、ツールを使いこなす力とともに、課題を見つけて定義する能力がより重要になっていくと考えられます。
他業種への波及:ホワイトカラー全般への示唆
今回の調査対象はソフトウェアエンジニアですが、AIが支援する業務のパターンは、文書作成、分析、企画など、ホワイトカラー全般の仕事にも共通します。定型的な作業はAIが補い、人は判断や創造的な業務に集中する――Anthropic社内で起きている変化は、今後、幅広い職種で再現される可能性があります。
企業と個人が今から備えるべきポイント
企業側:AIを前提とした業務設計への転換
Anthropicのように、AIを業務フローの前提に組み込む企業は今後増えていくとみられます。その際に重要なのは、単にツールを導入するだけでなく、以下のような観点から仕事の設計そのものを見直すことです。
- どの工程をAIに任せ、どの工程を人が担うのかを明確にする
- AI活用を前提にした評価指標・成果基準を設計する
- 社員が安全かつ効率的にAIを試せるルールと環境を整える
Anthropicが内部利用ログを20万件規模で分析している点からも分かるように、実際の利用データに基づいて運用を改善していく「計測と改善」のサイクルが欠かせません。
個人側:AIを「代わりにやるもの」から「一緒に考える相手」へ
エンジニアにとってClaude Codeがそうであるように、今後、多くの知的労働者にとってAIは、単なる自動化ツールではなく「一緒に試行錯誤する相棒」のような存在になっていきます。そのためには、
- AIに適切な指示を出すスキル(プロンプト設計)
- AIの提案を評価し、取捨選択する目利き力
- 成果物に対して最終責任を負うプロフェッショナル意識
といった能力が求められます。Anthropic社内でのケースは、こうしたスキル変化が現場レベルで進行中であることを示していると言えるでしょう。
まとめ
Anthropicによる社内調査は、AIがエンジニアの仕事をどのように変えつつあるのかを具体的に示す貴重な事例です。AIは単に作業を効率化するだけでなく、仕事の中身や求められるスキル、チーム全体の働き方を変えていきます。この変化は、ソフトウェア開発にとどまらず、多くの職種に広がっていくと考えられます。企業も個人も、「AIと共に働く前提」でキャリアや組織運営をデザインしていくことが、これからの競争力のカギとなりそうです。




