中国・武漢で、バイドゥ系の自動運転サービス「Apollo Go」の車両10台が、障がいのあるアーティストや若いクリエイターの作品でラッピングされ、「走るギャラリー」として街を走り始めました。アートと移動の双方をアクセシブルにしようとするこの取り組みは、モビリティの新しい可能性を示しています。
武漢で始まった「走るギャラリー」プロジェクトの概要
自動運転タクシー10台がアートでフルラッピング
Apollo Goは、中国のIT大手バイドゥが展開する自動運転モビリティサービスです。今回武漢で新たに導入された10台の自動運転車(AV:Autonomous Vehicle)は、車体全体をキャンバスに見立て、さまざまなアート作品で彩られています。街中を走る車両自体がアート展示となり、市民や観光客が日常のなかで自然に作品と出会える仕掛けです。
障がいのあるアーティストと若手クリエイターが参加
ラッピングに使われているのは、障がいのあるアーティストや若いクリエイターによる作品です。視覚的な表現を通じて、彼らの世界観や感性が街なかに広がることで、障がいの有無にかかわらず創造性を発揮できる社会の姿を体現しています。普段ギャラリーに足を運ばない人でも、移動中に「偶然出会うアート」として触れられる点が大きな特徴です。
地元パートナーとの連携で実現
このプロジェクトは、地元のパートナー組織のサポートによって実現したとされています。現地の行政やNPO、文化団体などが連携することで、アーティストの発掘・支援から車両デザインの制作、運行までを一体的に進めているとみられます。地域との協働により、単なる広告ラッピングではない「文化プロジェクト」として位置づけられている点がポイントです。
アートとアクセシビリティが交差する意義
移動そのものを「誰にでも開かれた体験」に
プロジェクトのテーマには「Art and accessibility can share the same ride(アートとアクセシビリティは同じ車に乗れる)」というメッセージが込められています。これは、アート鑑賞という文化体験と、日常の移動という生活インフラの両方を、より多くの人に開かれたものにしようという発想です。自動運転技術は、高齢者や身体に不自由のある人の移動手段として期待されており、アートと組み合わせることで、移動が単なる移動にとどまらない価値を帯びていきます。
街全体を「ミュージアム」に変える効果
車両が走るたびに、街のあちこちが即席の展示空間となり、都市全体がミュージアムのような役割を果たします。決められた場所と時間に集まる従来型の展覧会とは異なり、 移動経路や時間によって見え方が変わる「動的な展示」が実現します。これは、都市ブランディングや観光資源としても活用しやすい形式であり、武漢の新たな文化発信の手段になる可能性があります。
インクルーシブデザインの取り組みとしての位置づけ
障がいのあるアーティストの作品を前面に打ち出すことは、インクルーシブデザイン(多様な人が利用しやすいデザイン)の実践例とも言えます。車両デザインを通じて、社会の多様性や包摂性に対する意識を高める効果が期待されます。公共空間でのビジュアルメッセージとして、"accessible mobility(誰もが利用しやすい移動)" の重要性を、さりげなく、しかし印象的に訴える試みです。
今後の広がりと他地域へのヒント
自動運転サービスの新しい「差別化ポイント」に
自動運転サービスは世界各地で実証や商用展開が進んでいますが、料金や利便性だけでは差別化が難しくなりつつあります。アートや社会的メッセージと結びつけることで、ユーザーに「このサービスを選ぶ意味」を提供できる可能性があります。企業にとっても、ブランドイメージ向上や社会貢献の一環として取り組みやすいテーマと言えるでしょう。
日本を含む他都市での応用可能性
同様のコンセプトは、日本を含む他の都市でも応用が可能です。たとえば、地方都市での自動運転バスやオンデマンド交通と、地元の障がいのあるアーティストや学生クリエイターの作品を組み合わせれば、
- 地域文化の発信・観光資源の創出
- 障がいのある人や若手クリエイターの活躍の場づくり
- 次世代モビリティ技術への市民理解の促進
といった複数の効果を同時に狙うことができます。自治体・交通事業者・文化団体が連携するモデルとしても参考になりそうです。
まとめ
武漢で始まったApollo Goの「走るギャラリー」プロジェクトは、自動運転技術とアート、そしてアクセシビリティを掛け合わせた新しい都市体験の試みです。障がいのあるアーティストや若いクリエイターに光を当てつつ、街全体をミュージアムのように変えていくこの取り組みは、今後のモビリティサービスやまちづくりにおけるヒントを多く含んでいます。今後、どのような都市やコミュニティに広がっていくのか注目されます。




