イーロン・マスク氏がかつて語っていた「火星に自立型都市をつくるための800億ドル構想」と、「自身の子どもにAGI(汎用人工知能)の支配権を継がせる」という発言が、元関係者の証言によりあらためて注目を集めている。発言の真意は不明だが、巨額資本とテクノロジーの行方を誰がどのようにコントロールすべきか、あらためて問いかける内容だ。
イーロン・マスク氏の「火星都市」構想とは
800億ドルを目指す「自立型都市」計画
証言によると、マスク氏は「火星に自立して運営できる都市を築くために、800億ドル(約12兆円規模)の資本を蓄積したい」と語っていたという。これは単なる探査ミッションではなく、現地で経済と生活が循環する「自立型都市」を前提にしている点が特徴だ。
自立型都市の実現には、打ち上げコストの劇的な低下、現地での資源採掘・エネルギー生産・食料生産、さらには医療や教育まで含めた社会インフラが不可欠となる。800億ドルという数字は、こうした長期的・総合的なインフラ整備を視野に入れた、きわめて野心的な目標額と言える。
なぜ「マジョリティー持分」が必要だと主張したのか
マスク氏は、この火星都市構想を実現するために「自分は過半数の株式(マジョリティー持分)を持つ必要があり、それに値する」と主張したとされる。過去に経営権を十分に握れなかった経験から、「完全なコントロールがないことで痛い目にあった」と振り返り、今後は重要なプロジェクトでは意思決定権を集中させたい考えを示したという。
宇宙開発のように投資規模が大きく、回収までの時間軸が長い分野では、短期的な収益を求める株主との間に摩擦が生じやすい。そのため、創業者が長期ビジョンを貫徹するために経営権を強く求める構図は珍しくない。ただし、それがどこまで正当化されるかは、社会的影響力の大きさやガバナンス体制次第で評価が分かれる。
宇宙開発とガバナンスのバランス
マスク氏の企業グループは、Starshipをはじめとするロケット開発や衛星インターネットなど、宇宙関連のインフラを広範囲に押さえつつある。インフラが民間企業に集中するほど、意思決定の透明性、公平性、長期的な安全性への懸念は増す。一方で、公共部門だけでは到達し得なかったスピード感と革新をもたらしているのも事実だ。
こうした状況の中で、「マジョリティー持分」と「完全なコントロール」を求める発言は、火星都市というビジョンの魅力と同時に、権力集中のリスクも内包していることを示している。
「子どもがAGIを支配する」発言の意味
継承の話題で飛び出した「子ども」とAGI
証言によれば、マスク氏と後継体制について話し合う中で、彼は「自分の子どもがAGI(汎用人工知能)をコントロールする」構想に言及し、周囲を驚かせたという。詳細な文脈は明らかではないが、少なくとも「次世代への権限の継承」を具体的にイメージしていたことがうかがえる。
AGIとは、人間レベル、あるいはそれ以上の汎用的な知能を持つとされるAIの概念であり、その実現と制御をめぐっては世界中で倫理・安全・ガバナンスに関する議論が続いている。もしAGIが現実のものとなれば、そのコントロール権限は軍事、経済、政治などあらゆる分野に波及する可能性がある。
家族による支配か、公共的なガバナンスか
「子どもによるAGI支配」という表現は、究極的には家族支配・世襲型のガバナンスを示唆している。これに対し、AGIのような基盤技術は、民主的な統治や国際的な合意、複数組織による分散的な監視のもとで運用されるべきだという声も根強い。
すでにテクノロジー業界では、少数の大企業や特定の創業者に権限が集中しすぎているとの批判がある。もしAGIのような強力な技術が、特定企業や個人、さらにはその家族にまで権限が固定化されると、技術的失敗だけでなく、社会的不平等や政治的緊張を一層深刻化させる懸念がある。
発言が与える影響と周囲の反応
証言者は、「人が何を望み、どう考えているかを率直に語ることは、物事を解決できるかどうかを判断するうえで重要だ」とも述べている。つまり、マスク氏が自らの望みや構想を隠さず語ったこと自体は、周囲の人間が「どこまで一緒にやれるのか」「価値観や目標は一致しているのか」を見極めるための材料になったということだ。
一方で、この発言は、マスク氏と関係を持つパートナーや投資家にとって、どの程度の権限集中を受け入れるのか、またAGIのような技術を誰が最終的にコントロールすべきかを、改めて考えさせる「重要な文脈」として受け止められている。証言では、こうした文脈を踏まえ、関係者が自らの立場や望みを見つめ直そうとしている様子がうかがえる。
テクノロジーと権力集中をどう考えるか
巨大プロジェクトにおける「完全支配」の功罪
火星都市やAGIのような巨大プロジェクトでは、トップが強力なリーダーシップを発揮することで、リスクを取りながらもスピード感を保てるという利点がある。その一方で、権力が一極集中することで、意思決定が不透明になり、外部からのチェックが働きにくくなるリスクも高まる。
特にAGIのような技術は、制御が失敗した場合の影響が地球規模に及ぶ可能性があるため、「創業者のビジョン」と「社会全体の安全・倫理」のバランスがより一層重視される。公共性の高い技術ほど、多様なステークホルダーが関与できるガバナンス設計が求められている。
投資家・パートナーが見るべき「本音」とリスク
今回の証言は、マスク氏と協業する投資家や企業、研究者にとって、同氏の「本音」を理解するうえで貴重な材料となる。ビジョンへの共感だけではなく、所有権や支配権、後継体制に関する価値観が一致しているかどうかは、長期的なパートナーシップの成否を左右するからだ。
特定の人物が「完全なコントロール」を望み、さらに将来それを家族に継がせる意向を持っている場合、外部ステークホルダーは、そのリスクを織り込んだうえで関係を築く必要がある。今回のような証言は、その判断材料として機能しうる。
まとめ
マスク氏が語ったとされる「火星に自立型都市を築くための800億ドル構想」と、「子どもによるAGI支配」発言は、ビジョンの壮大さと同時に、権力とテクノロジーのコントロールをめぐる深い問いを突きつけている。発言がどこまで実務的な計画に基づくものなのかは不明だが、少なくとも関係者にとっては、「自分たちは何を望み、どのようなガバナンスを受け入れられるのか」を考えるきっかけとなっている。



