中国検索大手バイドゥ(Baidu)が、デジタルヒューマン(バーチャル人物)プラットフォーム「Yijing(易境)」を打ち出しました。従来のライブコマース用途にとどまらず、動画制作やリアルタイム対話、長尺のインタラクティブコンテンツまで視野に入れた「マルチシナリオ」展開が特徴です。
Yijingとは何か:ライブコマース特化から総合プラットフォームへ
Huiboxingから進化した「マルチシナリオ」基盤
Yijingは、もともとライブコマース向けに開発されていた「Huiboxing(慧播星)」をアップグレードする形で誕生した、次世代のデジタルヒューマンプラットフォームです。従来は商品の紹介や販売に特化していた機能を拡張し、より広い用途で使える総合基盤として再設計されています。
これにより、企業やクリエイターは、1つのデジタルヒューマンを複数の場面で使い回しながら、ブランドイメージや世界観を一貫して届けることが可能になります。
対応シナリオ:ライブ配信から長尺インタラクティブまで
Yijingは、次のような多様なシナリオに対応することを想定して設計されています。
- ライブ配信(Livestreaming):EC配信やイベントの司会、PR番組など
- 収録動画(Video):商品紹介、企業PR、チュートリアル動画などのコンテンツ制作
- リアルタイム対話(Real-time interaction):顧客対応、FAQ応答、接客などのインタラクティブな応対
- 長尺インタラクティブコンテンツ:ストーリー仕立ての体験型コンテンツや教育・研修プログラムなど
このように、Yijingは「売るためのデジタル店員」から、「ブランドやサービスを長期的に支えるデジタルパートナー」へと役割を広げることを目指しています。
デジタルヒューマンの広がる活用シーン
企業マーケティング:24時間稼働の“デジタル担当者”
マーケティング分野では、デジタルヒューマンは「24時間休まない担当者」として機能します。商品の説明やブランドストーリーを、ライブ配信や動画、チャットなど複数のチャネルで一貫した顔と声で伝えられる点が強みです。
これにより、従来は人手やコストの制約で難しかった、深夜帯や海外市場向けのサポート強化、ニッチなターゲット向けの細かい訴求も、比較的低コストで実現しやすくなります。
教育・研修:反復学習に適した対話型キャラクター
教育・研修の分野では、長尺のインタラクティブコンテンツと相性が良いと考えられます。例えば、同じ内容を繰り返し教える基礎トレーニングや、ロールプレイ形式の研修などにおいて、デジタルヒューマン講師やインストラクターが活躍する可能性があります。
学習者は、自分のペースで質問したり、特定のパートだけやり直したりといった柔軟な学び方がしやすくなり、講師側の負担も軽減できます。
エンタメ・ファンビジネス:継続的な“バーチャルタレント”運営
エンターテインメントの領域では、デジタルヒューマンが「バーチャルタレント」として長期的に活動するケースが増えるとみられます。ライブ配信やショート動画に加え、ファンと対話するインタラクティブイベント、物語性のある長編コンテンツなど、Yijingが想定するマルチシナリオは、ファンビジネスと親和性が高い構造です。
同一のキャラクターを複数プラットフォームで運営しつつ、世界観を崩さない表現を続けやすい点も、企業やIPホルダーにとって魅力となるでしょう。
デジタルヒューマンの進化がもたらすインパクト
コスト構造と働き方への影響
デジタルヒューマンの導入は、人件費の一部を固定費化しながら、対応時間やカバレッジを拡張できる点で、企業のコスト構造に大きな変化をもたらします。その一方で、全てを自動化するのではなく、「デジタルヒューマンが一次対応、人間が高度な相談に対応」といった役割分担が現実的な運用スタイルになる可能性が高いでしょう。
こうした流れは、カスタマーサポートや販売、教育現場などの「人と人が向き合う」業務の在り方を見直す契機にもなります。
ユーザー体験の質と倫理的な課題
複数のシナリオで同じデジタルヒューマンが活躍するほど、ユーザーはそのキャラクターに親近感を抱きやすくなります。一方で、「相手が人間なのか、デジタルなのか」を明確に伝える表示や、誤解を招かない運用ルールの整備も重要になります。
とくに長尺インタラクティブコンテンツのように、没入度の高い体験を提供する場合には、ユーザー保護の観点からも、透明性の高い設計が求められます。
まとめ
BaiduのYijingは、ライブコマースという特定用途から一歩進み、デジタルヒューマンを「複数の現場で活躍する総合プレーヤー」として位置づけるプラットフォームです。ライブ配信、動画、リアルタイム対話、長尺インタラクティブコンテンツを一体的に扱える基盤が整えば、企業やクリエイターは、ブランド体験をより立体的かつ継続的に設計できるようになります。
今後は、技術的な進化とともに、ユーザー体験の質や倫理面への配慮が、デジタルヒューマン活用の成否を分ける重要なポイントとなりそうです。




