中国検索大手の百度(Baidu)は、AIエージェント基盤「OpenClaw」を中心に、PC・スマホ・スマートスピーカー・ブラウザなどを横断して利用できる新製品や開発者向け機能を一斉に発表した。日常のタスク処理から企業のマーケティング・アルゴリズム実験まで、AIが現場にどう入り込んでいくのかを示すラインアップとなっている。
OpenClawを核としたAIエージェント製品群の概要
デスクトップ向けAIエージェント「DuMate」:ファイルとデータ分析のハブ
「DuMate」は、PC上で動作するデスクトップAIエージェントで、ファイル操作、データ分析、複数アプリをまたぐタスク処理を1つのインターフェースで完結できることが特徴だ。これにより、これまで人がアプリ間を行き来しながら行っていた作業を、AIが連携して代行する「作業ハブ」として機能する。
例えば、社内のExcelファイルを読み込み、必要な部分を抽出してスライド資料を作成し、メールアプリを立ち上げて関係者に送付するといった、一連の事務タスクをAIエージェントが一気通貫でサポートするイメージだ。単なるチャットボットではなく、PC上の実作業に入り込む「デスクトップ・アシスタント」としての役割が強まっている。
家庭向けスマートスピーカー「Xiaodu」:家中のデバイスをつなぐ音声エージェント
百度のスマートスピーカー「Xiaodu(シャオドゥ)」シリーズにも、OpenClawのAIエージェント機能が統合される。これにより、家庭内の複数デバイスやアプリをまたいだタスクを、音声操作だけで指示できるようになる。
たとえば、子どもの学習アプリの進捗を確認し、スマホのカレンダーと連携して家庭の予定を整理したり、家電と連動して「明日の朝6時に起きられるよう、エアコンと照明を自動調整して」といった指示をまとめて処理する、といった使い方が想定される。AIエージェントが「家庭の司令塔」として機能する形だ。
ブラウザからゼロデプロイで利用できる「DuClaw」
「DuClaw」は、ブラウザ経由でOpenClawにアクセスできるサービスで、ユーザー側の環境へのインストールや複雑な設定が不要な「ゼロデプロイ」が売りだ。PCでもタブレットでも、ブラウザさえあれば同じAIエージェント環境にアクセスできる。
社内PCの制約が厳しい企業や、複数拠点からアクセスするチームにとっては、導入ハードルが低い点が大きなメリットになる。アカウントさえ共有すれば、同じAIエージェントの設定・ワークフローをチーム全体で再利用できる可能性もある。
モバイルネイティブ体験「RedClaw」:旧「Operator」から刷新
モバイル向けには、旧「Operator」アプリが名称変更され、「RedClaw」として生まれ変わる。OpenClawを前提としたネイティブなスマホ体験を提供することで、移動中や外出先でも、PCと同様のAIエージェント機能を利用できる設計だ。
チャット形式でのやりとりに加え、スマホの通知・位置情報・カレンダー・連絡先などと連携することで、「今いる場所に近い顧客だけに連絡を送る」「移動時間を考慮したスケジュール調整を提案する」といった、モバイルならではの文脈理解が期待される。
「Baidu App」内からワンタップでOpenClawにアクセス
百度の主要モバイルアプリである「Baidu App」内にも、OpenClawへのエントリーポイントが組み込まれる。ユーザーは検索アプリを開き、ワンタップでAIエージェントとの対話を開始できるようになる。
これにより、従来の「検索キーワードを入力して情報を取得する」体験から、「目的やタスクを自然言語で伝え、その達成をAIエージェントに任せる」体験へとシフトしていく。検索とAIエージェントの境界が曖昧になり、ユーザーはよりタスク志向でサービスを利用できるようになりそうだ。
検索スキルからアプリ開発・実験・マーケまで広がるAI活用
Baidu Search Skillの発展と「スキル呼び出し」型エージェント
百度はすでに「Baidu Search Skill」を通じて、検索機能をエージェントが呼び出せる「スキル」として提供してきた。今回の発表は、この考え方をさらに拡張し、アプリ開発やマーケティング、アルゴリズム実験といったより専門的な領域にも「スキル」を広げる試みだ。
これにより、ユーザーや企業は、1つのAIエージェントが多様なスキルを状況に応じて呼び分ける「マルチツール型」の運用が可能になる。人が個別の専門ツールを都度開かなくても、エージェントが裏側で最適な機能を選び、実行してくれる世界観だ。
「Miaoda App Builder」:アプリ開発そのものをスキル化
「Miaoda App Builder」は、アプリ開発プロセスをAIエージェントが呼び出せる1つのスキルとして提供するものだ。開発者やビジネス担当者は、「この業務フローを自動化するアプリを作りたい」と自然言語で指示し、AIが設計・生成を支援する形が想定されている。
アプリ開発の専門知識が乏しいチームでも、AIエージェントを介してプロトタイプ作成や画面レイアウトの提案、バックエンド連携の下準備などを効率的に進められる可能性がある。社内ツールや業務アプリの「内製化」を加速する起点にもなり得るだろう。
「FaMou Skills」:複雑なアルゴリズム実験の管理と最適化
「FaMou Skills」は、複雑なアルゴリズム実験の管理・最適化を支援するスキル群として紹介されている。推薦システムや検索ランキング、広告配信など、パラメータ数が多く検証パターンも膨大になりがちな領域での活用が想定される。
実験条件の設計、A/Bテストやマルチアームバンディットの設定、結果データの解析といった一連の流れを、AIエージェントが補助することで、データサイエンティストやエンジニアの作業負担を大幅に軽減する狙いがある。人は意思決定や仮説立案に集中し、ルーティン作業はエージェントに任せる分業が進みそうだ。
「Keyue Skills」:企業向けマーケティング機能を強化
企業のマーケティング部門向けには、「Keyue Skills」が新たな選択肢となる。これは、キャンペーン設計やターゲットセグメントの最適化、クリエイティブの評価・改善提案など、マーケティング活動に必要な機能をAIエージェントのスキルとして提供するものだ。
たとえば、特定の顧客層に向けた新商品のプロモーションを行う際、過去の施策データやユーザー行動ログをもとに、AIが「どのチャネルで、どの訴求軸が効果的か」を分析し、実行プラン案まで提示することが期待される。マーケターはAIの提案を起点に、戦略の磨き込みに注力できるようになる。
AIエージェント時代に向けた視点と今後の展望
ユーザー体験の変化:検索から「タスク達成」へのシフト
今回の百度の動きは、検索サービス企業が「情報提供」から「タスク達成」へと進化しようとしていることを象徴している。OpenClawを軸にした各種製品・スキルは、ユーザーが目的だけを伝え、実行プロセスはAIエージェントに任せる、という新しい利用スタイルを後押しする。
日本企業にとっても、検索やチャットボットを単独機能として導入するのではなく、「複数の業務・サービスをまたいで動くエージェント」という視点で自社のデジタル戦略を見直すヒントになりそうだ。
まとめ
百度は、AIエージェント基盤「OpenClaw」を中核に、デスクトップの「DuMate」、スマートスピーカーの「Xiaodu」、ブラウザから使える「DuClaw」、モバイルネイティブの「RedClaw」、そして「Baidu App」内からのワンタップアクセスといった多様な入口を用意した。さらに、Miaoda App Builder、FaMou Skills、Keyue Skillsにより、アプリ開発・アルゴリズム実験・マーケティングといった専門領域もエージェントが扱えるスキルとして拡張している。
今後は、こうしたAIエージェントが、個人の仕事や家庭生活、企業のオペレーションにどこまで深く入り込むのか、そしてプライバシーやガバナンスをどう両立させるのかが重要な論点になっていく。百度の動きは、AIエージェント時代の方向性を占ううえで、注目すべき事例と言えるだろう。



