調査会社Omdiaの最新レポートによると、バイドゥ(Baidu)のクラウド事業「Baidu AI Cloud」が、2025年上半期の中国におけるエンボディド・インテリジェンス(Embodied Intelligence、身体性を持つAI)向けクラウド市場で35%のシェアを獲得し、トップに立ったことが分かりました。ロボットや自律走行システムなど「物理世界で動くAI」を支える基盤として、Baidu AI Cloudが存在感を強めています。
中国エンボディドAIクラウド市場で首位に立ったBaidu AI Cloud
Omdia調査で市場シェア35%を獲得
Omdiaが公表した最新レポートによれば、2025年上半期の中国におけるエンボディド・インテリジェンス向けクラウド市場で、Baidu AI Cloudが35%という高いシェアを確保し、首位のポジションを築きました。競争が激化する生成AIやロボティクス分野において、クラウド基盤の優位性が数値として示された形です。
エンボディド・インテリジェンスは、ロボット、ドローン、自律移動ロボット(AMR)、自動運転車、各種スマートマシンなど、現実世界でセンサーとアクチュエーターを通じて「身体」を持つAI技術の総称です。高度な知能モデルに加え、大量のデータ処理、シミュレーション、リアルタイム推論を支えるクラウド基盤が不可欠とされています。
Baidu AI Cloudが注目される背景
Baiduは検索エンジン企業として知られていますが、近年は大規模言語モデルや自動運転、クラウドサービスなど、AI全般を支える基盤企業として事業を拡大してきました。とりわけ、エンボディドAI分野では、ソフトウェアからハードウェア、さらには開発者向けプラットフォームまでを一体で提供できる点が強みとみられます。
Omdiaの調査結果は、そうした戦略が実際の市場シェアという形で成果につながっていることを示すものであり、中国国内のロボティクス・自律システム関連企業にとっても、主要な選択肢としての地位を固めつつあることを意味します。
「AIインフラ」と「エージェントインフラ」で構成される技術体系
AI Infra:モデルと計算資源を支える基盤
Baidu AI Cloudの技術体系は、「AI Infra」と呼ばれるAIインフラを中核に据えています。これは、大規模言語モデルやマルチモーダルモデルを動かすためのGPUクラスタ、分散学習基盤、推論サーバーなどを含むレイヤーで、エンボディドAIに必要な高負荷な計算をクラウド上で処理できるようにするものです。
ロボットや自律システムでは、環境認識、経路計画、対話、協調作業など、多数のAI機能が同時に動作します。AI Infraは、こうした複雑な処理を安定的に行うための土台として、開発企業の負担を軽減するとともに、スケールアップにも対応できるよう設計されているとされています。
Agent Infra:エージェント型AIの実行・管理レイヤー
もう一つの柱が「Agent Infra」と呼ばれるエージェントインフラです。これは、エージェント(自律的にタスクを遂行するAI)を設計・実行・管理するためのミドルウェアやフレームワーク群を指し、ロボットや自律マシンが複数のタスクを連携してこなせるようにする役割を担います。
Agent Infraの上では、タスク分解、ツール呼び出し、外部システムとの連携、センサーからの入力処理などが統合的に扱われます。これにより、開発者はハードウェアや低レベル制御の細部よりも、「どのようなサービス体験を提供するか」という高いレイヤーの設計に注力しやすくなります。
データ収集・アノテーションとクラウドシミュレーションの一体提供
Omdiaの紹介によれば、Baidu AI Cloudの技術体系は、AI InfraとAgent Infraに加え、「データ収集・アノテーションサービス」と「クラウドベースのシミュレーション」を組み合わせた構成となっています。エンボディドAIの性能向上には、膨大な実世界データと、それを精密にラベリングしたアノテーションが欠かせません。
クラウド上のシミュレーション環境を活用することで、現実世界ですべてのケースを実験することなく、仮想空間で多様なシナリオを再現し、AIエージェントの学習や検証を効率化できます。現実のセンサーデータとシミュレーションを組み合わせることで、安全性や信頼性の高いエンボディドAIの開発が可能になると期待されています。
エコシステムと利用シーン:30社超のリーディングカンパニーを支援
イノベーションセンターと30社以上の先端企業を支える
Baidu AI CloudのエンボディドAI向けクラウドは、産業界の幅広いプレーヤーに利用されているとされます。今回の情報によると、同クラウドは各種イノベーションセンターや、エンボディドインテリジェンスのエコシステムに属する30社以上のリーディングカンパニーを支援しているとのことです。
これには、ロボットメーカー、自動運転関連企業、スマートファクトリー向けソリューションプロバイダー、物流ロボティクス企業など、多様な業種が含まれるとみられます。クラウド側で共通基盤を提供することで、各社は重複投資を抑えつつ、差別化が必要なアプリケーション開発にリソースを振り向けやすくなります。
産業分野で想定される活用事例
エンボディドAIを支えるクラウド基盤は、次のようなシーンでの活用が想定されます。
- 製造業:協働ロボットによる組立・検査、自律搬送ロボットによる工場内物流
- 物流・倉庫:ピッキングロボット、棚搬送ロボット、24時間稼働の自動倉庫システム
- モビリティ:自動運転車やシャトルバス、ラストワンマイル配送ロボット
- サービス業:接客ロボット、清掃ロボット、警備ロボットなど人との対話を伴うエージェント
- スマートシティ:インフラ監視ドローン、公共空間での自律移動ロボット
これらのシステムはいずれも、センシング、判断、行動というサイクルを高速かつ安全に回す必要があり、その裏側でクラウドAIが大きな役割を果たします。Baidu AI Cloudは、この「見えない頭脳」として、複数の産業をまたぐ共通基盤となることを狙っています。
業界が「次の成長フェーズ」に入る意味
今回の発表では、エンボディドインテリジェンス業界全体が「次の成長フェーズ」に入ったとも言及されています。これは、研究開発中心の段階から、実際のビジネス・社会実装が加速するフェーズへ移行しつつあることを示唆します。
市場が拡大するなかで、クラウド事業者にとっては、単なるコンピューティング提供にとどまらず、データ、ツール、シミュレーション、エージェント運用までを含めた「垂直統合型」のサービス提供が競争力の源泉になっていくと考えられます。Baidu AI Cloudの動きは、その一例として位置づけられます。
今後の展望と業界へのインパクト
中国発エンボディドAIプラットフォームの国際的な存在感
中国では、国家戦略としてロボティクスや自動運転、スマートマニュファクチャリングが推進されており、エンボディドAIはその中核技術と位置づけられています。Baidu AI Cloudのようなクラウドプラットフォームが国内市場で優位に立つことは、将来的に国際市場での展開を見据えた足場づくりにもなり得ます。
一方で、エンボディドAIには安全性、倫理、プライバシー、標準化など、多くの課題も残されています。クラウド事業者は、性能競争だけでなく、こうしたガバナンス面での取り組みも問われる局面に差し掛かっています。
まとめ
Omdiaの最新レポートにより、Baidu AI Cloudが2025年上半期の中国エンボディドAIクラウド市場で35%のシェアを獲得し、トップに立っていることが明らかになりました。同社はAIインフラとエージェントインフラを中核に、データ収集・アノテーションやクラウドシミュレーションを組み合わせた技術体系を構築し、イノベーションセンターや30社以上の先進企業を支援しています。
ロボットや自律システムが社会のさまざまな場所に広がるなかで、こうしたクラウド基盤の動向は、産業構造や競争環境を左右する重要な要素になりつつあります。エンボディドAI市場が次の成長フェーズに入る今後数年は、中国のみならず世界のテクノロジー企業にとっても、大きな転換点となりそうです。




