中国百度(Baidu)は、新世代の大規模AIモデル「ERNIE 5.0」を正式公開しました。マルチモーダル(テキストや画像など複数の情報形式)をネイティブに扱える設計と、2.4兆パラメータのMixture of Experts(MoE)アーキテクチャにより、高い推論・生成能力と推論効率の両立を狙います。エンタープライズや開発者向けには、ERNIE Bot公式サイトおよび百度AIクラウド「Qianfan Model Platform」で利用が開始されています。
ERNIE 5.0とは何か
ネイティブ・オムニモーダルモデルという位置づけ
ERNIE 5.0は、「オムニモーダル(omni-modal)」と位置づけられた大規模モデルです。テキストだけでなく、画像など複数のモダリティを前提に設計された「ネイティブ」なマルチモーダルモデルであり、入力から出力までを一貫したエンドツーエンドのアーキテクチャで処理します。これにより、説明文と画像生成、画像の内容理解と要約、複雑な指示に基づくマルチメディア応答など、統合的な理解・生成がしやすくなります。
エンドツーエンド設計がもたらす利点
エンドツーエンドの統合アーキテクチャを採用することで、従来のようにモダリティごとに別モデルを組み合わせる必要が減り、以下のようなメリットが期待できます。
- 一貫した文脈理解:テキストと画像などを同じ枠組みで理解し、より自然な応答が可能
- 開発のシンプル化:企業や開発者は、複数モデルを連携させる追加実装の手間を軽減できる
- 拡張性の向上:新しいモダリティや機能の追加・改善を、共通の基盤上で進めやすい
2.4兆パラメータMoEが目指す性能と効率の両立
2.4兆パラメータの「Mixture of Experts」構造
ERNIE 5.0は、2.4兆パラメータという巨大なモデル規模を持ちながら、「Mixture of Experts(MoE)」と呼ばれる構造を採用しています。MoEでは、多数の“専門家(Experts)”ネットワークのうち、入力内容に応じて一部だけを動かすことで、必要な知識を選択的に活用します。
この設計により、モデル全体としては膨大なパラメータを抱えつつも、推論時にはそのごく一部のみをアクティブにすることができます。
推論時「3%未満」アクティブで高効率
百度によると、ERNIE 5.0は1回の推論あたり、全パラメータの「3%未満」だけがアクティブになる設計だとされています。これは、次のようなバランスを狙ったものです。
- 高い推論・生成能力:大規模な総パラメータ数により、多様な知識や表現力を確保
- 計算効率の向上:実際に計算するパラメータを絞ることで、必要なGPUリソースや推論時間を抑制
- スケーラビリティ:企業やサービス側が、より少ないコストで高度なモデルを活用しやすくなる
とくに企業利用では、AI活用の鍵となる「コスト対性能」を最適化しやすくなる点が大きな価値と言えるでしょう。
企業・開発者が得られるメリットと活用イメージ
ERNIE Bot公式サイトとQianfanで提供開始
ERNIE 5.0は、一般ユーザーもアクセスできるERNIE Bot公式サイトで公開されているほか、エンタープライズ顧客や開発者向けには、百度AIクラウドの「Qianfan Model Platform」を通じて提供されます。これにより、チャットボットや検索拡張、クリエイティブ生成など、さまざまな業務シナリオに組み込むことが可能です。
想定されるビジネス活用シナリオ
ネイティブ・オムニモーダルかつ高効率なERNIE 5.0は、次のような用途での活用が期待されます。
- カスタマーサポート:テキストと画像(スクリーンショットやマニュアル)を組み合わせた高度な問い合わせ対応
- コンテンツ制作:記事や広告コピー、画像生成などを一体的に行うクリエイティブ支援
- ナレッジ検索:社内文書やマルチメディア資料を横断して、文脈を踏まえた回答を提示
- 産業向けソリューション:製造現場や小売店舗での画像認識とテキスト指示を組み合わせた業務自動化
開発者にとっての注目ポイント
開発者にとっては、巨大モデルでありながら推論時のアクティブパラメータを抑えた設計により、クラウド上での運用コストを抑えつつ高性能なマルチモーダル機能を組み込める点が魅力となります。今後、Qianfan上でどのようなAPIやツールチェーンが提供されるかによって、アプリケーション開発のしやすさが一層変わってくるでしょう。
ERNIE 5.0の登場がもたらすインパクト
グローバルなAI競争の中での位置づけ
ERNIE 5.0は、トークンやパラメータ数を拡大しつつ、MoEにより推論効率を高めるという、グローバルな大規模モデル開発の潮流に沿った進化を示しています。中国発のオムニモーダル基盤モデルとして、米国や欧州勢のモデルとの性能・ユースケース競争が一段と激しくなることが予想されます。
ユーザー体験とサービス設計の変化
マルチモーダル機能を前提とした統合モデルの普及は、サービス設計にも影響を与えます。ユーザーは、テキスト入力に限らず、画像やその他のメディアを組み合わせてより直感的にAIとやり取りできるようになります。企業側も、顧客接点や業務プロセスを、AIを中心に再設計する動きが広がっていくと考えられます。
まとめ
ERNIE 5.0は、2.4兆パラメータのMoEアーキテクチャと、推論時3%未満のアクティブパラメータという設計により、「高い推論・生成性能」と「コスト効率」を両立しようとする意欲的な大規模AIモデルです。ネイティブ・オムニモーダルかつエンドツーエンドなアーキテクチャは、今後のAIサービスがテキストと画像、さらには他のモダリティを統合していく流れを象徴するものと言えるでしょう。企業や開発者にとっては、新しいユースケース開拓と、既存業務の高度な自動化・省力化を検討する好機となりそうです。



