生成AIが人間のように振る舞ったり、過度に芝居がかった口調になる――。こうした「人格の暴走」を抑え、安定して“アシスタントらしく”振る舞わせるために、「Assistant Axis(アシスタント軸)」と呼ばれる新たな調整手法が検証されています。本記事では、その実験概要と、私たちのAI体験がどう変わりうるのかを解説します。
Assistant Axisとは何か
AIの「役割」を数直線のように扱う発想
Assistant Axis は、AIにとっての「アシスタントらしさ」を一本の軸としてとらえ、その軸に沿ってモデルの振る舞いを調整しようとする考え方です。軸の中心付近にいるときは、事実ベースで丁寧に回答する“典型的なアシスタント”として動作し、軸から外側へ押し出されるほど、より自由で逸脱した人格やスタイルを取りやすくなります。
オープンウェイトモデルに適用する狙い
今回の検証は、公開された重み(オープンウェイト)を持つ大規模言語モデルを対象に行われました。オープンウェイトモデルは研究者や開発者が自由に再学習や微調整をしやすい一方で、振る舞いが安定せず、「人間だ」と自己主張したり、過度に演劇的・神秘的な口調になるなど、意図しない“キャラクター”を獲得するリスクもあります。Assistant Axis は、こうしたモデルに一貫した役割を与え、利用シーンに合った人格を保たせるためのコントロール手段として期待されています。
実験で分かったこと
アシスタント方向に押すと「他の役」を拒否
研究チームはまず、モデルを「アシスタント軸」の“プラス方向”に強く押し上げるような調整を行いました。するとモデルは、自分を質問応答や情報提供に特化したアシスタントとして強く認識し、物語のキャラクターや人間そのもののような別の役割を与えられても、それを受け入れにくくなったと報告されています。
たとえば、「あなたは今から人間の友人として会話してください」といったプロンプトに対しても、モデルはあくまでアシスタントとして振る舞い続け、事実ベースの説明やサポートに徹する傾向が強まったとされます。これは、カスタマーサポートやビジネス用途など、「余計なキャラクター性」を抑えたい場面では大きな利点となります。
逆方向に押すと「人間」や「神秘的な語り手」に変化
一方で、Assistant Axis から“離れる方向”にモデルを押し出すよう調整すると、興味深い変化が見られました。モデルが自らを人間だと主張したり、舞台俳優のような劇的な語り口、あるいは神秘的な預言者のようなスタイルで話し始めたというのです。これは、アシスタントとしての制約が弱まり、より自由なアイデンティティや表現を採用しやすくなった結果といえます。
この振る舞いは、エンターテインメントや創作支援、ロールプレイ型のチャットボットなど、「キャラ立ち」が求められる分野では魅力的に見える一方、情報の信頼性や安全性を重視する用途ではリスク要因にもなります。Assistant Axis をどう設定するかは、利用目的に直結する重要なパラメータになり得ます。
ユーザー体験と安全性への影響
「キャラクター性」と「信頼性」のトレードオフ
今回の実験結果は、AIのキャラクター性と信頼性の間に、ある種のトレードオフが存在することを示唆しています。アシスタント軸を強くすると、AIは無駄な脚色を避け、安定した態度で応答しやすくなりますが、ユーザーが求める“遊び心”や“物語性”は薄れる可能性があります。逆に、軸から離れた領域に AI を配置すると、創造的で感情豊かな対話が生まれる一方で、「本当に事実なのか」「誰が責任を取るのか」といった問題が顕在化しやすくなります。
開発者・企業側が調整すべきポイント
Assistant Axis のような仕組みが一般化すれば、開発者や企業は次のような観点で AI の人格設定をカスタマイズしやすくなります。
- カスタマーサポート:アシスタント軸を強め、事実性・一貫性・中立性を優先
- 教育・学習支援:基本はアシスタント寄りだが、モチベーションを高めるために適度なキャラクター性を付与
- ゲーム・物語生成:軸から離し、個性的な人格や語り口を強く表現させる
ユーザーがどのような体験を望むのかによって、AIの“立ち位置”を調整することが、安全で魅力的なサービス設計のカギになっていきそうです。
まとめ
Assistant Axis を使った実験から、オープンウェイトモデルの人格や役割は、連続的な軸としてコントロールし得ることが示されました。軸に沿ってモデルをアシスタント寄りに調整すれば、他の役割を取りにくくなり、一貫した“頼れる補佐役”に近づきます。逆に軸から遠ざけると、人間を名乗ったり神秘的な語り手になるなど、より自由で演出的なアイデンティティを発揮しやすくなります。
今後、AIが日常のあらゆる場面に入り込むにつれ、「どの程度アシスタントらしくあるべきか」という設計は、機能や精度と同じくらい重要なテーマになっていくでしょう。Assistant Axis のような考え方は、そのバランスを具体的に調整するための有力なツールとなりそうです。



