生成AIの浸透で、コードを書く行為そのものが変わりつつあります。いま議論の中心にあるのが「Vibe Coding(直感・対話主導の開発)」と「Craft Coding(設計・実装の職人技)」のせめぎ合いです。AIはエンジニアの仕事を奪うのか、それとも飛躍的に拡張するのか——この論点を整理し、現場で価値を生むための具体的な視点を紹介します。
論点の整理:Vibe vs Craft は対立か補完か
Vibe Codingとは何か
自然言語で要件を伝え、AIにコードを提案・修正させながら、素早く動くプロトタイプを形にするアプローチです。速度と探索性が武器で、未知の領域やUI試作、統合のたたき台作りに向きます。
Craft Codingが担う役割
要件定義、アーキテクチャ設計、非機能要件(セキュリティ、性能、可用性)やコード品質の統制など、再現性と責任が求められる領域を支えます。長期運用・規模拡大を見据えた設計判断が核です。
対立ではなく「モード切り替え」
探索段階ではVibe、堅牢化フェーズではCraft、と目的に応じてモードを切り替えるのが実務的です。重要なのは、どの品質ゲートで何を担保するかをチームで合意し、AI活用の境界と責任範囲を明確にすることです。
現場インパクト:AIは仕事を奪うのか、拡張するのか
代替されやすい作業、拡張される作業
ボイラープレート生成、既知のパターン実装、テスト雛形作成などはAIで高速化されやすい一方、曖昧な要件の解消、利害調整、リスク評価、設計トレードオフは人間の判断が中心です。AIは実装作業の摩擦を減らし、上流・横断スキルの価値を相対的に高めます。
品質・保守の新しいリスク
生成コードは一見動いても、脆弱性や依存関係の肥大化、隠れた性能劣化を招くことがあります。AIを使うほど、観測性(Observability)、セキュリティレビュー、ライセンス確認、テスト戦略の体系化が重要になります。
成果の測り方が変わる
単純なコード行数やコミット数では生産性を測れません。ビジネス価値への到達時間、障害率・回復時間、変更容易性、ユーザー満足など、アウトカム指標へのシフトが求められます。
実務で価値を出すためのアクション
開発者が今すぐ強化したいスキル
AIを前提に、問題定義力と設計判断力が差になります。生成物を鵜呑みにせず、意図・リスク・運用を踏まえたレビュー能力を磨くことが重要です。
- 要件の言語化・分解(プロンプト設計/仕様化)
- アーキテクチャ設計と非機能要件のトレードオフ判断
- テスト戦略(プロパティベース、回帰、セキュリティ)
- 観測性・SLO設計とインシデント対応
- データプライバシー・ライセンス遵守の知識
チーム運用のガードレール
生成AIの利用ポリシーと監査可能性を確保し、品質ゲートをCIに組み込むことで、速度と安全性を両立します。
- AI利用時のデータ取り扱い方針(機密・個人情報の遮断)
- 生成コードの出典・ライセンス確認手順
- 静的解析・SAST/DAST・依存関係スキャンの自動化
- テストカバレッジとパフォーマンス予算の基準化
- リリース前レビュー(人間+AI)の二重化
プロダクトマネジメントとの接点強化
AIで実装が早まるほど、価値仮説の検証ループを短く回すことが重要です。小さく出して計測し、学習して軌道修正する体制が競争力を生みます。
結論と示唆
まとめ
AIは「作る速さ」を劇的に上げますが、「何をなぜ作るか」「どう安全に継続提供するか」は人間の設計と責任の領域です。VibeとCraftは二者択一ではなく、目的に応じて切り替える実務スキルのセット。エンジニアは上流判断と品質統治を強化し、チームはAI時代のガードレールを整える——それが淘汰ではなく拡張へと舵を切る最短ルートです。




