対話型AIで知られるPerplexityは、Mixture-of-Experts(MoE)モデル向けに独自のカーネルを開発し、兆(トリリオン)パラメータ規模のモデルをクラウド横断で扱える可搬性とともに実用化へ近づけたと発表した。同社として初の研究論文をarXivに公開したことも明らかにしており、大規模モデルの運用とコスト最適化に新たな選択肢を示す動きとして注目される。
発表の概要
独自MoEカーネルで兆パラメータモデルを実用域に
Perplexityは、MoE向けに最適化した「カスタムカーネル」を開発したと発表した。自社発表によれば、この取り組みにより兆パラメータ規模のモデルを現実的なパフォーマンスとコストで扱えるようにし、さらにクラウドプラットフォーム間での可搬性(ポータビリティ)も確保したという。これは提供基盤の制約を受けにくく、ワークロードに応じて最適なクラウドを選べる可能性を広げる。
arXivに初の研究論文を公開
同社は今回の成果をarXivに研究論文として公開し、Perplexityにとって初の学術論文になったと述べている。詳細は同社の告知リンクから参照できる(告知ツイート)。
技術的背景とポイント
Mixture-of-Experts(MoE)とは
MoEは、入力ごとに一部の「エキスパート(専門家)層」だけを選択して計算するスパース化手法で、巨大モデルでも計算効率を高めやすいのが特徴だ。ゲーティング機構がトークンに応じて適切なエキスパートへルーティングし、計算資源を必要な部分に集中させることで、スループットやコストの改善が期待できる。
カスタムカーネルの狙い
MoEの実運用では、GPU上でのルーティング、All-to-All通信、メモリレイアウト最適化など低レベル処理が性能を左右する。カスタムカーネルは、こうしたボトルネックをハードウェアに近い層で最適化し、レイテンシ削減やスループット向上を狙うアプローチだ。Perplexityはこの最適化を汎用クラウドで動かせる形に整えたと説明している。
MoEでボトルネックになりやすい要素
一般に、MoEの拡張では通信やメモリが律速になりやすく、スケーリング効率を損ないやすい。以下は代表的な課題だ。
- エキスパート間のAll-to-All通信オーバーヘッド
- トークンのルーティングとロードバランシングの偏り
- メモリ帯域・キャッシュ効率とアクティベーションのスパース化
- クラウドごとに異なるGPU/ネットワーク特性への最適化
ビジネスと研究への影響
クラウド横断の可搬性がもたらす利点
可搬性の確保は、特定ベンダーへの依存を下げ、運用コストや調達リスクの最適化を後押しする。特に大規模推論・学習では、価格や供給状況に応じた柔軟なリソース選択が競争力に直結する。
- ベンダーロックインの回避と価格交渉力の向上
- コスト最適化(スポット/予約・地域差の活用)
- 需要ピーク時のキャパシティ確保と地理的冗長性
- 新GPU世代・新インタコネクトへの機動的な移行
兆パラメータ時代の実用化に向けて
兆パラメータ級モデルは精度や汎用性の向上が期待される一方、推論・学習のコストとレイテンシが大きな障壁になる。MoE最適化とクラウド横断運用の組み合わせは、予算制約の中で高性能を引き出す現実解として有効性が試される局面に入った。
エコシステムへの波及
研究論文の公開は、実装の考え方や評価手法の透明性を高め、オープンな検証と改良を促す。ベンダーや研究機関、スタートアップが相互に検証可能な基盤を共有できれば、MoEのベストプラクティスが加速していく可能性がある。
今後の展望
今後は、公開論文でのベンチマーク結果や、異なるクラウド/ハードウェアでの再現性、推論と学習の両面での費用対効果が焦点となる。実装の一般化やオープンソース化の範囲、対応するGPU世代やネットワーク構成の拡充にも注目したい。




